この革、もともとは1枚の革です。
この革、もともとは1枚の革です。
バンドマシンという機械を使って、 1枚の革を7枚に漉き割りしてみました。
もともとは1枚の革。バンドマシンを使って7枚に漉き割りました。
革の世界では、革を薄くする加工を「漉く」と言います。
でも、同じ「革を薄くする」でも、 バンドマシンと革漉き機では仕上がり方が違います。
今回はHEXIONにある2つの機械を使って、その違いを紹介します。
革を「割る」バンドマシン
こちらがHEXIONで使っているバンドマシンです。
HEXIONで使用しているバンドマシン。
バンドマシンは、革をスライスする機械です。
革全体の厚みを調整したり、革の重さを軽減したりすることができます。
鞄づくりでは、革をそのままの厚みで使うとは限りません。
作るものや使う場所に合わせて、 「この革はもう少し薄くしたい」ということがあります。
そんなときに、革全体の厚みを調整するのがバンドマシンです。
今回は、もともと1枚だった革を
7枚に漉き割りしてみました。
革は表面だけを見ていると一枚の素材ですが、 厚み方向にも、こんな加工ができます。
「バンドマシン」だけが名前ではない
少しややこしいのですが、革業界ではメーカーや地域、職人によって、 機械や加工の呼び方が違うことがあります。
ちなみに私は、革全体を薄くすることを 「全漉き」と呼んでいました。
バンドマシンも、人によっては 「漉き割り機」「スライサー」「バンドナイフ」 などと呼ばれることがあります。
加工の呼び方も同じで、現場によって違うことがあります。
「どれが正しいの?」と思うかもしれませんが、 鞄づくりの現場では、こうした呼び方の違いは珍しくありません。
私がおすすめするのは、まず標準用語で覚えること。
そのうえで、実際に仕事をするメーカーや現場に合わせて、 そこで使われている呼び方を覚えるのが一番だと思います。
方言と少し似ているかもしれません。 標準的な言葉を知ったうえで、その土地の言葉も覚えるような感覚です。
ちなみにHEXIONのワークショップでは、 初めての人でもイメージしやすいように、 私が勝手に名前をつけて呼んでいるものもあります。
あくまでワークショップ用の呼び方なので、業界では通用しません。
ちなみに、このバンドマシンは 「赤い蜘蛛の機械」です。笑
革漉き機は「必要なところ」を漉く
そして、こちらが革漉き機です。
革の必要な部分を薄くする革漉き機。
バンドマシンとの大きな違いは、 革全体ではなく、必要な部分を漉くことができること。
例えば、革を折り返すところ。
革と革が重なるところ。
縫い合わせるところ。
そのままでは厚くなりすぎる部分を、必要に応じて薄くしていきます。
革の端だけを部分的に漉いた状態。
鞄は、革を一枚切って縫えば完成するわけではありません。
折ったり、重ねたり、貼ったり、縫ったりします。
仮に2mmの革を2枚重ねれば、それだけで約4mmになります。 さらに折り返しなどが加われば、もっと厚くなります。
そこで、完成したときの厚みを考えながら必要なところを漉いていきます。
ただ革を薄くするのではなく、
完成したときにちょうどよくする。
革漉きは、そのための工程でもあります。
バンドマシンと革漉き機の違い
簡単に分けるなら、こんな違いです。
バンドマシン
革全体の厚みを調整する
革漉き機
折り返しや重なりなど、必要な部分を薄くする。
同じ「革を薄くする機械」でも、役割が違います。
鞄を作るときには、このように完成した形を考えながら、 革の厚みも調整しています。
ちょっと余談。「寸」と「ミリ」
機械の名前だけでなく、鞄づくりでは 使う単位もメーカーや職人によって違うことがあります。
「寸」を使うところもあれば、「mm」を使うところもあります。
私自身も以前は、 販売する商品はmm、ワークショップでは寸 と使い分けていました。
ワークショップでは、その場で型紙を作ったり、 参加する人に合わせてサイズを変更したりすることがあります。
手で型紙を作っていた頃は、私にとって寸の方が目盛りが大きく、 割り算もしやすかったからです。
今はCADで設計して型紙を作っているので、 mmを使っています。
似ている寸法でも、同じではない
例えば、1cmと3分。
1cmは10mm。
3分は約9.1mmです。
その差は約0.9mm。
ほんのわずかな違いに見えます。
でも、鞄を作る道具では、この違いを一緒にするわけにはいきません。
以前使っていたラッパも、見た目だけでは分からなくならないように、 後ろに「1センチ」「3分」と書いて分けていました。
同じブランドのバッグでも、作り方まで同じとは限らない
店頭には同じブランドの商品として並んでいても、 バッグを作るメーカーが違えば、仕事のやり方が違うことがあります。
使う単位が寸だったり、mmだったり。
同じワッペンを縫い付ける仕事でも、 縫い方や縫い始め、縫い終わりの位置が違うこともあります。
以前、ミシン屋さんに道具を頼むときにも、 「どこ経由?」 と聞かれることがありました。
取引先の会社名を伝えると、
「じゃあ寸で作るね」
「そこならセンチで作るね」
と、それぞれの会社の単位に合わせて道具を作ってくれる。
当時は、それが普通でした。
機械の呼び方が違う。
使う単位が違う。
同じものを作っていても、作り方が違う。
それでも最後には、一つのバッグとして完成します。
では、何が「正解」なのか?
最近ではYouTubeやInstagramを見れば、 鞄づくりやレザークラフトのいろいろな方法を見ることができます。
同じ工程でも、人によってやり方が違う。
では、どれが正解なのでしょうか。
私は、全部正解だと思っています。
「ずいぶん手間のかかるやり方だな」
「コバの磨きが甘いな」
「糸の焼いた跡が見えているな」
「面取りをしていないな」
同じものを見ても、見る人によって仕上がりの見え方は変わります。
例えば、コバを何工程もかけてきれいに磨いて仕上げる職人さんが、 工程数を抑えたコバ仕上げを見れば、 「仕上げが甘い」と感じるかもしれません。
でも、それだけでその作り方が間違っているとは言えないと私は思います。
仕上げ工程の少ないコバ。
さらに工程を重ねて仕上げたコバ。
HEXIONでは、工程にも金額をつける
HEXIONではオーダーを受けるとき、 ヘリ返しにするのか、コバ塗りにするのか、 さらに何回仕上げるのかまで確認しています。
そして、すべてを一緒にはしません。
コバ磨きも、コバ塗りも、
1回の工程ごとに金額をつけています。
1回仕上げるものと、何度も繰り返して仕上げるものでは、 当然かかる時間も手間も違うからです。
回数を増やせば、仕上がりも変わります。 でも、その分だけ価格も上がります。
だから、何回もやった方が「正解」というわけではありません。
その製品を誰に届けるのか。
どんな仕上がりを求めるのか。
いくらで販売するのか。
どれくらいの数量を作るのか。
そこまで含めて、ものづくりだと考えています。
作り方だけを見て良い悪いを決めてしまうと、 その先にいるお客さんや、メーカーが目指しているものが見えない、 一方向からの感想になってしまうと私は思います。
月産1万本と月産1,000本。どちらがすごい?
バッグメーカーで考えると、もっと分かりやすいかもしれません。
例えば月に1万本のバッグを生産する会社と、 月に1,000本のバッグを生産する会社。
どちらがすごいでしょうか。
私は、どちらもすごいと思います。
本数が少ないと、 「手間をかけて、いいバッグを受けている会社なんだろう」 なと考えてしまいます。
もちろん、実際に手間のかかるバッグを専門に作っている会社もあります。
でも、1万本を同じ品質で生産し続けるためには、 また別の技術が必要です。
1本にどれだけ手間をかけたかだけでは、 ものづくりの良し悪しは決められません。
たくさん作るための技術もあれば、 一つに時間をかけるための技術もあります。
正解を探すより、
自分が作りたいものに合った方法を見つける。
自分の「正解」を見つける
設備の呼び方も違う。
寸を使う人もいれば、mmを使う人もいる。
革の漉き方も、コバの仕上げ方も違う。
YouTubeで見た方法と、工場で教わる方法が違うこともあります。
だから私は、まずいろいろな方法を試せばいいと思っています。
そのうえで、
自分は何を作りたいのか。
誰に届けたいのか。
どんな仕上がりにしたいのか。
そこに合った方法を選べばいい。
それが、ものづくりの面白さの一つだと私は思っています。
HEXIONでは、完成したバッグだけでなく、 こうした道具や工程も含めて、 革でものを作る面白さを伝えていきたいと思っています。


