幼稚園児が、工業用ミシンを使う?
幼稚園児が、
工業用ミシンを使う?
HEXIONでは、幼稚園の年長さんくらいになると、 工業用ミシンを使って革を縫うことがあります。
ワークショップを始めて15年。
私は、子どもが工業用ミシンを使うことに、 最初からそれほど抵抗がありませんでした。
でも最近になって、 その理由が少し分かった気がします。
私が育った環境の「普通」は、
どうやら普通じゃなかったみたいです。
足が届かなくても、ミシンを踏む
この写真は、うちの子どもが小さかった頃のものです。
工業用ミシンを使っていますが、 まだ足はペダルに届いていません。 それでもこの方法で普通にミシンを踏み、 糸を切る操作までしていました。
そのために椅子を前に寄せて、 足を思いっきり伸ばしています。
私にとっては、 「子どもだからできない」と考えるより、
「どうしたら、この子ができる?」
と考える方が自然でした。
心配やお叱りの声は、ごもっともです
こうした写真や動画をSNSに載せると、 ときどき心配の声や、お叱りをいただくことがあります。
「危なくないんですか?」
「子どもに工業用ミシンを使わせて大丈夫ですか?」
その声は、ごもっともだと思っています。
工業用ミシンは、おもちゃではありません。
実際に鞄職人が仕事で使う機械です。
もちろん、子どもに何でも自由に使わせているわけではありません。
大人がそばにつく。
その子に合わせて使い方を考える。
難しいところはサポートする。
「どうすれば安全に操作できるか」を考える。
そんなふうに、これまで子どもたちとものづくりをしてきました。
「普通は、子どものいるところにそんな設備置かないよ」
最近、レザークラフトをしている知人と話していたときのことです。
その知人は、奥さんや旦那さんから、 「近くにミシンや機械があると危ないから、部屋を分けてほしい」 と言われたことがあるそうです。
その話の流れで、こんなことを言われました。
子どもがいるところにそんな設備置かないですよねー。
HEXIONさんは特別ですよ。
そのとき初めて、
「あれ?
もしかして私の普通って、普通じゃない?」
と気づきました。
私が子どもの頃、ミシンは生活の中にあった
私は鞄メーカーの家系に生まれたので、子どもの頃から鞄づくりが身近にある環境で育ちました。
友達の家も内職をしていたので、工業用ミシンは普通にありました。
近所を歩けば家の中からミシンの音が聞こえてきて、 窓から工業用ミシンが見えてました。
数人で学校鞄やスポーツブランドのバッグを 縫っている家も多くありました。
ミシンの音がする中で友達と遊んで、 繋がったパーツの糸切りをして遊んだり。
工業用ミシンは、 「大人だけが触る特別な機械」というより、 子どもの頃から生活の中にあるものでした。
ミシンの音がする場所で遊ぶ。
それが私にとっては普通でした。
ちなみに、ミシンの音を 「心地いい音」と感じる人も多いと思います。
でも、私の記憶の中にあるミシンの音は少し違います。
一定のリズムで、マシンガンのように
「ダダダダーッ」と鳴る音。
そして、ものすごい速さで縫う手元から、 うっすら煙が上がる光景。
私にとって工業用ミシンは、 「心地いいもの」というより、
かっこいいマシーンでした。
うちの子どもたちにとっても普通だった
その感覚は、自分が親になってからも変わりませんでした。
うちの子どもたちも、 小さい頃から工業用ミシンに触れてきました。
革を置いて、ミシンを動かして、縫ってみる。
でも、子どもたちを 鞄職人にしたかったわけではありません。
「将来、鞄屋になってほしい」と思って、 やらせていたわけでもありません。
うちの環境では、
工業用ミシンもベイブレードと同じ感覚の「遊び」。
ベイブレードで遊ぶ。
ゲームで遊ぶ。
革で何かを作ってみる。
ミシンを踏んでみる。
子どもたちにとっては、 その中のひとつだったんだと思います。
だから、ワークショップでも抵抗がなかった
私自身がそんな環境で育って、 自分の子どもたちも同じようにミシンに触れてきました。
だからワークショップに幼稚園の年長さんが来て、
と言ったときも、 私にはそれほど抵抗がありませんでした。
特別に、 「子どもにも工業用ミシンを使わせるワークショップを作ろう」 と考えたわけではありません。
やってみたいというから、 「一緒にやろうか」となるだけ。
できないところがあれば、 どうしたらできるかを一緒に考える。
それを続けていたら、 幼稚園の年長さんが工業用ミシンを使うことが、 HEXIONでは普通になっていました。
「設備を揃えた」という感覚もありませんでした
HEXIONに来られた方から、
「設備がすごいですね」
「こんなにミシンがあるんですね」
と言われることがあります。
でも私自身は、 特別に設備の充実した工房を作ろうとした感覚はありませんでした。
自分が育ってきた鞄づくりの環境を基準にして、
今の自分の身の丈に合った最低限を揃えた。
私の感覚では、それくらいでした。
ミシンが何台もあるのも、私には普通だった
HEXIONには、複数の工業用ミシンがあります。
これも、 「たくさん設備を置こう」と思って増やしたわけではありません。
私の中では、 一台のミシンをその都度いろいろな仕様に調整して使うというより、
縫うものに合わせて調整してあるミシンのところへ、
人が移動する。
それが普通だと思っていました。
糸や針、押さえ、縫うものに合わせて調整されたミシンがあって、 工程が変われば次のミシンへ移動する。
だからHEXIONにも、自然とミシンが増えていきました。
みんな設備投資して踏ん張っているんだと思っていた
レザークラフトをしている人と知り合う機会は、 これまでもありました。
でも、会うのはイベントや展示会など、 ほとんどが工房の外です。
実際にその人がどんな工房で、 どんな設備を使って作っているのかを見る機会は、 意外とありませんでした。
だから私は、
踏ん張ってるんやな。
くらいに思っていました。
自分の工房が特別だという認識が、 そもそもなかったんです。
自分の「普通」を持ってきたら、HEXIONになった
振り返ってみると、 HEXIONは最初から今のような工房を狙って作ったわけではありません。
子どもにも本物の道具を使わせよう。
工業用ミシンを何台も置こう。
設備の揃った珍しいワークショップにしよう。
そんなところから始まったわけではありません。
自分が育ってきた環境の「普通」を、
自分の身の丈に合わせて持ってきた。
その結果が、今のHEXIONなんだと思います。
HEXIONでは、 「革職人への扉」という言葉を使っています。
でも考えてみれば、 私自身が子どもの頃から、 革やミシンとの間にあまりハードルのない環境で育ちました。
ミシンの音がする中で遊んで、 自分の子どもたちもミシンを遊びのひとつとして触ってきた。
そして今、 ワークショップでは幼稚園の年長さんが工業用ミシンを踏んでいます。
今ではランドセル作りのワークショップもあり、 幼稚園児と家族でランドセルを作ることもできます。
「できる人だけが使う道具」ではなく、
「やってみたい人が触れられる道具と設備」へ。
私にとって当たり前だった環境を、 今度はHEXIONに来てくれる人たちにも体験してもらう。
それが、 今のHEXIONの「革職人への扉」につながっているのかもしれません。
まずは、ちょっとだけ体験してみる。
いきなり工業用ミシンを使わなくても大丈夫です。
「革でものづくりって、どんな感じ?」
そんな方は、まずはカシメを打つところから。 小さな革のものづくりを気軽に体験できます。


