このカバン、誰が作った?
吉田カバンの話から考える、鞄づくりとOEM・分業
今回、吉田カバンの件で 「自社製造じゃなかったことにガッカリした」 という声を多く見かけました。
そう感じる方には、ハンドメイドの作家さんから購入することをオススメします。
なぜなら、今回の話は単純に 「自社で作っているか、作っていないか」 だけでは判断できないからです。
最後にクイズをつけています。
自分はどこで買えば納得できるのか。
そもそも「作った」とは、どこまでを指すのか。
ぜひ、自分なりの答えを考えてみてください。
鞄はどう作られているのか
私は生まれた時から、職人さんや完成前のバッグの材料、 バッグを作る設備、外注先などに囲まれて育ちました。
そんな環境から見ると、今回の吉田カバンの件に限らず、 市場で誰もが目にするバッグの多くが、 OEMを含むさまざまな分業によって生産されていることは、 特別珍しいことではありません。
バッグは、一人の職人が最初から最後まで作っているものばかりではありません。
材料に関わる会社。
裁断する会社。
革を加工する会社。
コンピューターミシンなどで、同じパターンを縫製する会社。
内職で縫うたの下準備をする人
内職でミシンを踏む人。
社内でミシンを踏む人。
仕上げをする人。
検品する人。
場合によっては、レントゲン検査などを専門の会社に依頼することもあります。
つまり、一つのバッグが完成するまでには、 表からは見えないたくさんの人や会社が関わっています。
「人材」と聞くと、 ミシンを踏む職人さんを思い浮かべる方も多いと思います。
でも、それだけではありません。
バッグの形を維持するために、 バッグの中に丸めた紙が入っているのを見たことはありませんか?
あの紙を丸めるのも人です。
縫った後の糸を切るのも人。
糸の端をライターで焼いて処理するのも人。
一つ一つの小さな工程を、誰かがやっています。
OEM・分業とは何か
では、なぜ全部を自社で生産しないのでしょうか。
一つの大きな理由は、 購入者さんや発注者さんが求める 「価格以上の品質」に応えるためです。
日本のバッグは、価格に比べてものすごく品質が高いと私は感じています。
その品質と価格を両立させるには、 それぞれの工程に特化したOEMメーカーや加工会社、 職人さんなどの受け皿が必要になります。
また、安い鞄を安定してたくさん作ろうとすればするほど、 設備投資も必要になります。
そして、その設備を就業時間中しっかり稼働させるだけの 仕事量と人材も必要になります。
一つの会社ですべての設備を持ち、 すべての工程の人材を抱え、 すべてを自社で行う。
それが必ずしも、 一番効率よく、一番品質の高いものを作れる方法とは限りません。
それぞれの工程が得意な会社や職人にお願いする。
それが分業です。
自社工場を持つことだけが、職人を守る方法なのか
今回、 「吉田カバンが自社で作っていないことにガッカリした」 という声を多く見かけました。
でも、ここでもう一つ考えてほしいことがあります。
吉田カバンは、国内の職人さんや工場と長年にわたり ものづくりを続けてきました。
私は、 「自社工場で作っていない=ものづくりをしていない」 とは少し違うと思っています。
工場を自社で所有することだけが、 職人さんの仕事を守る方法ではありません。
継続して仕事を発注すること。
品質を求め続けること。
その仕事があるからこそ、 専門の工場や職人さんが技術を磨き、 仕事を続けられることもあります。
これも、日本のものづくりを支える一つの形ではないでしょうか。
靴では普通でも、鞄では違和感?
少し不思議なのは、靴の生産です。
例えば、
「この工程は中国」
「この工程はベトナム」
「ここは日本」
と、複数の国や工場が関わっていても、 それほど問題にされないことがあります。
でも鞄になると、 同じ日本国内、場合によっては同じ地域の中で工程を分業しただけでも、
「自社で作っていなかったの?」
とガッカリする方がいます。
では、どこまでを自社で行えば 「その会社が作った」と言えるのでしょうか。
誰が作ったと言えるのか
ここからが、今回一番考えてもらいたいところです。
ブランドが企画する。
デザイナーがデザインする。
型紙を作る人がいる。
材料を手配する人がいる。
裁断する会社がある。
革を加工する会社・職人がいる。
内職で下準備をする人がいる。
社内や内職で縫う職人もいる。
糸を切り、仕上げをする人がいる。
最後に検品する人がいる。
そのすべてが合わさって、一つの商品になります。
ここでクイズです。
このカバン、誰が作ったことになりますか?
ブランドを立ち上げた会社?
デザインした人?
型紙を作った人?
材料を手配した人?
裁断した会社?
革を加工した人?
内職で縫った人?
社内で縫った人?
糸を切って仕上げた人?
検品した会社?
それとも、その全部?
では、商品のタグにはどこまで書く?
もう一つ考えてみてください。
もし「誰が作ったか」が商品を購入するうえで重要なのであれば、
商品のタグに、製造に関わった企業や工場を すべて表示することを義務化した方がいいと思いますか?
ブランド名。
裁断会社。
革加工会社。
縫製工場。
内職。
仕上げ会社。
検品会社。
それをすべて表示すれば、 「誰が作ったか」は分かりやすくなるかもしれません。
でも、それを見て私たちは 本当に商品の良し悪しを判断できるのでしょうか。
最後に
私は、自社製造が良いとも、 OEMが良いとも言いたいわけではありません。
一人の作家さんが最初から最後まで作るものづくりも素晴らしい。
たくさんの専門職が分業して、 高い品質の商品を作るものづくりも素晴らしい。
大切なのは、 自分が何に価値を感じて商品を選ぶのかを知ることだと思っています。
誰が作ったのか。
どこで作ったのか。
どうやって作ったのか。
ブランドの考え方なのか。
職人の手仕事なのか。
価格なのか。
品質なのか。
その答えは、人によって違っていいと思います。
あなたにとって、
「このブランドが作った」とは、どこからどこまでですか?
そして、自分はどこで買えば納得できますか?
最後のオチ
今回の件を見ていて、ふと思い出したことがあります。
私がまだ小さかった頃の記憶なので、 はっきりとは覚えていないのですが、
私の遊び場である自社工場で隠れん坊をしていると、 「〇〇工場」や「〇〇第1工場」のような 発注者の工場に見えるような看板が 置いていたような記憶があります。
当時は何とも思っていませんでした。
でも今回の件を見ていて、 ふと思いました。
もしかすると、 発注者さんがお客さんを工場へ連れてきた時に、
「ここで作っているんだ」
と安心してもらうためのものだったのでしょうか。
それとも、ブランドと工場の関係を、どう見せるかという事情が昔からあったのでしょうか。
子どもの頃の記憶なので、本当の理由は分かりません。
ただ、今回の「自社で作っているのか、外で作っているのか」という話を見て、
昔から、ブランドと作る場所の間には、お客さんには見えないいろいろな関係があったんだろうな、と改めて思いました。
結局、もう一度この問いに戻ります。
このカバン、誰が作ったことになりますか?
